仲ミチルは、ある都立高校の音楽講師。
四十代の半ばまでを“売れないシャンソン歌手”として気ままに過ごしたミチルだが、仕事は激減、そろそろカタギになろうと、ようやく今の仕事にありついたのだった。
今日はミチルが初めて迎える卒業式。国歌斉唱の際、伴奏をするようにと校長の与田から命じられていた。だが、ミチルはピアノが大の苦手、おまけにアガリ性でもある。「私のせいで厳粛な式が台無しになっては……」と、ミチルは早朝から音楽室にこもり、伴奏の稽古に励んだ。
だが、極度の緊張のせいか、指が震えだし、おまけに眩暈までしだした。保健室に飛び込み、ベッドに横たわるミチル。「本番で間違えたらどうしよう」と、焦りはつのる一方だ。
与田が保健室へやって来た。英語教師の片桐、社会科教師の拝島も出入りして、ミチルはおちおち寝ていられない。
実は、今日「君が代」の伴奏が無事に行われることは、ミチルだけの問題ではなかった。都議会委員、教育委員会関係者も列席する中で、「君が代」の斉唱を拒否し、着席してしまう者が出たら、校長の指導力が問われかねない。与田や、「君が代・日の丸」推進派の教師にとって、肝心のピアノ伴奏者に不調が生じてはまずいのだ。しかし、教師の中には、「君が代」斉唱に反対の者や、全く無関心の者もいて、今回のハプニングに対する彼ら・彼女らの反応は様々である。
それぞれの思惑が交錯する中、卒業式の時間は刻一刻と迫ってくる。
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